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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

祥子と約束した、ほんのちょっとした仕事――のことなど、趙はすっかり忘れてしまったように何もいわなかったし、何となく二人のそぶりが怪しかった。

きっと何か悪いことをたくらんでいるんだわ――祥子は思った。

怪しいのは二人のそぶりばかりでなく、今まで、直ぐそばにありながら気がつかずにいた、あのトランクの中味だった。

そうだ、あいつらがかえって行ったのを幸いに、トランクの中に何が入っているか、調べて見よう!

祥子は、箱を出ようと、体をおこしかけたが、すぐ思いとまった。――箱の蓋は押しただけでは上らなかった。おきて行っても、まっ暗な中では、トランクを探りあてても無駄だったからだ。

香山飯店へ行く途中、インド人の巡警に誰何された時、趙はこの船をたしか日本の船だといっていた。そのくせ、香山飯店の地下室でも、船の中でも、日本人に一人もあわないのはどういうわけだろう。祥子が密航者なので、わざと秘密にしているのだろうか、それにしても、この船の中でも何か悪いことをたくらんでいるのだとすると、香山飯店の地下室でもそう思ったように、やはり敵のスパイかも知れない。そうだとすれば、祥子は知らず知らずの中に敵の手先につかわれているのかも知れなかった。