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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

――いや、例のビスケットの缶を開けるときに使った、たった一本の釘を後生大事にポケットに入れていたにすぎなかった。

不意におどりかかって、相手の武器を取りあげて、それで相手を仆す方法をとるよりほかに生きる途はなかった。

祥子はふるえながら、息を殺して、危険の通りすぎるのを待っていた。

こつこつ、こつこつと、おなじ歩調で歩哨は歩いて来た。

するとまた、突然、もう一人の歩哨らしい足音が、すぐ近くから聞えて来た。こんどは前の歩哨と反対の方向へ行くらしい。

前の歩哨は、二人がドラム缶の蔭にかくれているのに気がつかないらしく、やはり、しずかに、おちついた足どりで通りすぎて行った。

「誰か!」

「誰か!」

「異状はないか?」

「異状はないか?」

「異状なし」

「異状なし」

「よし」

「よし」

二人の歩哨が、鸚鵡がえしにそんな意味のことを英語でいいあうと、別れて行った。

へんな会話である。すこしも違わない言葉を取り交して、さっきとおなじ歩調ですれ違って行く。

そっと、後からのぞいて見ると――。

「なあんだ、機械人間じゃないか」

英夫は、おかしさにふき出しそうになった。

「危険じゃないかしら?」