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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
――そういうことも主人の芳兵衛は知っていて、たいていの場合はなにも云わないが、ぬけ遊びがたび重なると、しぜん仕事にひびくので、そのとき初めて小言を云い、それでも行状が改まらないと暇を出してしまう。五年のうちに二人くらいはそういう職人がいて、これらは芳古堂にいた、と云うことも許されないのであった。
栄二とさぶは心がときめいていた。
「はたちになったなんて、へんな心持だな」とさぶがまだるっこい調子で云った、「おら、思うんだが、十六で月代を剃ったときよりもへんな心持だ」
「そうだな」と栄二が云った。
二人は千筋の手織り木綿の袷に双子縞の羽折、小倉の角帯をしめ、麻裏草履をはいていた。ちょうど黄昏どきで、人の往来の多い小舟町の通りを東のほうへ、かくべつ目的もなくあるいていた。とにかく両国広小路へでもいってみようか、と思っているようであった。
「おめえはいいな、栄ちゃん」とさぶが云った、「おめえはもう屏風にかかれる、襖の下張りならいちにんめえだ、ところがおらときたら、いまだに糊の仕込みだ」
「それも仕事だぜ」
「おら、思うんだが、水の中で袋を揉みながら、ときどき自分がやりきれなくなるよ、はたちにもなってこのざまかって」