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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

その指が痛むし、ほかにも躯のそこかしこ、肩や腰の骨などに鈍痛があるので、身動きをするたびに顔をしかめるが、それ以外は石にでもなったように、正面のどこともない一点をみつめたまま、硬ばった顔つきで黙りとおしていた。

このあいだに功之進が綿文のほうをしらべたらしい。だが綿文では「ただどなり込んで狼藉をされた」というだけで、栄二の素姓や身許についてはなにも話さないようであった。そのことは、又左衛門の吟味のはしはしによくあらわれていて、栄二は心の中で冷笑したが、爪の先ほども顔色には出さなかった。

又左衛門に代って、石川なにがしとかいう吟味与力が、三日のあいだしらべに当った。これはかなりきびしく、容赦のないしらべかたであったが、それでも手をあげたり、どなりつけたりするようなことはなかった。そして七日めに、再び又左衛門が代った。

「なにか仔細があると思われるが」と又左衛門は事務的に云った、「お上の御用が繁多なため、そのほうにかかりきっている暇はない、これまでのしらべではほかに余罪はないようだから、本来ならこのまま召放しにするところだが、住居も請人も申立てず、また職の有無も云わぬ以上、無宿人の処分はまぬかれない、よって石川島の人足寄場へ送ることにしたから、そのように心得るがよい」