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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

さっきのれんを掛けていた女ではなく、一人は十八、九、一人は二十二、三で、どちらも小太りで、白粉と香油をつよく匂わせていた。栄二は酢の物とうま煮で酒を二本と云い、云いながら赤くなった。

「あたしあんたのこと知ってるわ」と年嵩のほうの女がさぶに云った、「あんた小舟町の芳古堂のしとでしょ」

さぶは戸惑ったように栄二を見た。女の一人は注文をとおしにゆき、年嵩のその女は腰をかけた。

「そうじゃねえさ」とさぶが云い、慌てて云い直した、「いや、本当はそうだよ、今日は親方やおかみさんに許されて来たんだ、こっちは栄ちゃん、おらあさぶっていうんだが、二人とも今年でちょうど」

「よせよ」と栄二が云った、「よけいなことを饒舌るなよ」

「あら、いいじゃないの」と女が云った、「さぶちゃんに栄ちゃんね、あたしおかめ――仇名じゃなくって本名なのよ、どうぞよろしく」

さぶが笑いだし、栄二が睨んだ。

「おれたちは二人っきりで飲みてえんだ」と栄二が女に云った、「酌はいいから、二人っきりにしてくんねえか」

「そんなら奥になさいな」と女は気に障ったようすもなく云った、「もうすぐにここはたて混むから、ゆっくり話なんかできやしないわ、狭いけれども向うなら静かよ、そうなすったらどう」