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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
そんなところへ通りかかると、松田権蔵は金盥を叩くような声でどなりつけた。
「このへちま野郎ども」男の人足なら赤鬼はそうどなる、「あんまりいい気になってのさばると、野郎ども石を担がせてくれるぞ」
「このしりがるのすべたども」女たちなら赤鬼はそう云う、「おとこの匂いにのぼせあがって頬桁ばかり叩いていると、大川へ突っこんでけつを洗わせるぞ」
「さあやっておくれ」などとやり返す女もいた、「松田さんならさぞうまく洗っておくれだろう、こっちからお願いするよ」
松田の顔は赤黒くなるが、決してどなり返したりはしない。口ではかなわないことがわかっているから、彼は聞えないふりをしてそこから去るのであった。男たちの中にも、ときたま松田に突っかかるようなまねをする者がいたけれども、それは憎むとか反感を持つからではなく、好きであり親愛感があるからであった。――いちばん人当りがよく、言葉も穏やかな、人見張役の小島良二郎だけは、人足たちの殆んどから嫌われているが、他の役人と人足たちのあいだは、ふしぎなくらいしっくりしていて、役人と寄場人足という対立的なところはなく、家主と店子とでもいいたいような親しさがかよいあっていた。