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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

潮がすっかりひいても、大潮の季節とは違うため、岸から五十間あまりしか干潟にならず、一刻たらずでその潮は岸まで戻るのであった。

「杭はあと五本だ」と小頭の伝七は云った、「うまくゆけば今日じゅうに片づいちまうぞ」

石垣の外に沿って杉丸太の杭を打込む。もちろん荒波から石垣を護るためで、これまでに五十七本も打込んできた。石垣の外は砂を五、六尺も掘ると土の地盤が出る、その地盤に穴を掘って、先端を尖らした杉丸太を嵌め、逆槌で打込むという単純な仕事だった。栄二は地盤に穴を掘る役にまわった。逆槌というのは槌の部分が上にあり、三つの柄が下に付いていて、三人がその柄を取り、杉丸太の上へ槌の部分をのせて、下へ向けて打ちおろすのである。三人が力を合わせ、いっしょに掛け声をあげながらする仕事なので、栄二は独りでできる穴掘りを選んだのであった。

あと五本だという、その四本めの穴を掘っていたとき、突然、石垣が崩れて栄二をその下へ押しつぶした。五、六尺も掘りひろげた砂の穴の上へ、崩れ落ちた石は不規則なかたちで、砂といっしょに穴を埋め、栄二は背骨を強く打たれて息が詰った。

「大変だ、来てくれ」