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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

だめだ、おまえさんは決して一人ぼっちじゃあなかったし、これから先も、一人ぼっちになることなんかあ決してないんだからね」

栄二は持っている盃をみつめていたが、急に眉をしかめ、与平から徳利を取って、「もう一つだけ」と云って、酌をした。与平はしぶしぶ盃を持ち、毒でも飲むように、そっと口をつけた。

「こんなお説教めいたことは、柄でもないからもうよすがね」と与平は片手で口を撫でながら云った、「――栄さんはきっと一流の職人になるだろうし、そういう人柄だからね、尤も、栄さんだけじゃあない、世の中には生れつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、けれどもねえ、そういう生れつきの能を持っている人間でも、自分ひとりだけじゃあなんにもできやしない、能のある一人の人間が、その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、眼に見えない力をかしているんだよ、ここをよく考えておくれ、栄さん」

年寄りになるとこういう口をきくから嫌われるんだね、と云って与平は笑った。

――さぶ、と栄二は心の中で叫んだ。ああさぶ、もういちどおまえに会いたかった。

十四の一

「もういちどあるいてみてよ」