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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

――そろそろ寒くなりはじめた十月の十五日、二人はまた夕めしのあとで「すみよし」へ飲みにいった。その夜もまたおのぶのために、縫取りのある半襟を買い、栄二に預かってもらっていったのだが、すみよしの店の、いつもの小座敷へあがると、栄二は包みをさぶに返した。

「もういいだろう」と栄二はわざと冷淡に云った、「十七や十八の小僧じゃあねえ、これからは自分でやれよ」

「わかってるだろう」さぶはとり縋るような眼つきをした、「おれにはできやしないよ」

「のぶ公は知ってるんだぜ」と栄二が云った、「おれが云ったんじゃあねえ、のぶ公が自分で勘づいたんだ、あんたはこんなことしてくれる人じゃないって、おれは面と向って云われちまった、いいつらの皮さ」

「いつのことだ」

「このまえのとき、おめえが手洗いに立ったあとでよ」

さぶは包みを脇に置いて、恥ずかしそうに低くうなだれた。まもなくおのぶが来、注文をとおしてから、先に酒だけ持って戻った。そしていつものように飲み始めたのだが、さぶはすっかりふさいでしまい、例になく盃は重ねるが酔うようすはなく、少しも気持がはずまないので、二人はまもなくすみよしを出た。