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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「ばかなことを云うな、おめえは泊ってゆくにきまってるじゃねえか、飲めよ」
「うう」とさぶは云った、「じゃあ、あとこれ一本だけ」
手伝いに来た二人の妻女を送り出して、おすえが手を拭きながら栄二の側へ坐った。
「おすえさん、申し訳ねえ」とさぶがまわらない舌で、おじぎをしながら云った、「もっと早くふけるつもりだったけれど、ついなが居をしちまった、この分だと、おらあやっぱり二人のお荷物になりそうだ」
「こっちは飲みあかしだ」と栄二はおすえに云った、「おめえ疲れてるだろう、いいから先に寝ちまいな」
「だって栄さん」
「二人っきりのほうがいいんだ」と云って栄二は眼くばせをした、「おめえにゃあ明日があるんだ、寝ろったら寝ろよ」
おすえは栄二の云うことを、眼で慥かめてから、さぶに言葉をかけて立っていった。
飲みあかしだと云ったが、栄二はもう酒の匂いを嗅ぐのもいやになっていたし、酔わない酒のさぶがすっかり酔って、躯は不安定にぐらぐらするし、呂律がまわらなくなってしまった。
「もう寝るか、さぶ」とやがて栄二が云った、「おめえ起きているのが辛そうだぜ」
そう云いながら振り向くと、半分あけてあるからかみの間から、隣りの六帖でおすえの着替えている姿が見えた。