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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「話ってなあそのことか」答えを捜すためのように栄二は問い返し、そして、答えが出てこないのだろう、独りで頷いてから静かに云った、「――にんげんは一寸さきのことだって、本当はどうなるか見当もつきあしねえ、まして五年さき十年さきのことなんか、神ほとけにだってわかりゃあしねえだろう、けれどもな、おめえがそう云うからおれの気持も聞いてもらうんだが、このまま順当にゆくとして、もしもおれが自分の店を持つようになったら、おめえといっしょに仕事をしようと考えているんだ」
さぶはゆっくりと栄二の顔を見あげ、栄二はさぶと並んでしゃがみこんだ。
「どんな店が持てるかわからねえが、二人でいっしょに住み、おめえの仕込んだ糊でおれが表具でも経師でも、立派な仕事をしてみせる、お互いにいつか女房をもらうだろう、そして子供もできるだろうが、それからも二人ははなれやしねえ」と栄二はひそめた声に感情をこめて云った、「――いつまでも二人でいっしょにやっていって、芳古堂に負けねえ江戸一番の店に仕上げるんだ、おれはこう考えているんだが、おめえはどう思う、おれとやるのはいやか」
さぶは考えてみてから首を振った、「だめだ、そう思ってくれるのは有難えが、おら、おめえの重荷になるばかりだ」