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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

二の四

二の四

「またそれだ、それがおめえのいちばん悪い癖だぜ、さぶ」と栄二が云った、「二人で店をやってゆくのに、どうしておめえが重荷になるんだ、おめえは誰にもひけをとらねえ立派な糊を作る、その糊でおれが仕事をする、おれたち二人の力を合わせてやるのに、重荷もへちまもねえじゃねえか」

さぶは吃った、「おら、思うんだが」

「よせったら」

「それでもおら、思うんだ」とさぶはねばりづよく云った、「おのぶのことだってそうだが、おれがいくじなしなために、栄ちゃんにとんでもねえ迷惑をかけちまった」

「おれが迷惑だなんて云ったか」

「おめえはなんにも云やあしねえ、いつだってなんにも云やあしねえ、けれどもそれだけよけいに、おら自分のいくじなしがやりきれなくなるんだ」と云ってさぶは暗がりの中でさぐるように栄二を見た、「――覚えているかい、栄ちゃん、十五のとしの冬だっけ、おれが店をとびだしたとき、おめえは雨に濡れながら追っかけて来た、横網河岸まで追っかけて来て、おれを伴れ戻してくれたことがあった」

「おめえだって雨に濡れてたぜ」

「おら、あのことは一生忘れねえが、伴れ戻される途中ずっと一つことを考えてた、おら、このままだときっと、栄ちゃんの厄介者になるだろうって、いつも栄ちゃんに面倒をかけて困らせるこったろうってな」