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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

と云い、栄二に眼まぜをしながらそっちへいった。

「怒ったようだな」と栄二は手酌で一つ飲みながら独りごとを云った、「――男が働いて女を養うってかい、そんな話じゃあねえのを知ってるくせに」

だが、思いあがりっていうのは当ってるかもしれない。おすえやさぶが稼いでいるのは、おれたち三人の急場を凌ぐためだろう。それを女房に稼がせている、などと考えるのは思いあがりかもしれない、と彼は思った。

「そこんところがおかしい」栄二は酔ってはっきりしなくなった頭を、呼びさまそうとするように強く振った、「おれはちっとも思いあがった気持なんぞありゃあしねえ、とんでもねえ、おれはさぶにもおすえにも済まねえと思ってるんだ」

ごめんなさい、と云われて顔をあげると、おのぶがさっきの客とそこへ来ていた。客は五十五、六だろう、結城紬の袷に羽折、紺献上の博多の帯をしめて、白鞣しの革の緒をすげた麻裏をはいていた。

「うちのお客さまのさぬき屋さん」とおのぶがひきあわせた、「こちらへいっしょになりたいって仰しゃるんですけれど、それに、ちょっとお話もあるんですって」

否応を云わせない口ぶりである。栄二はそれにつり込まれたように手を振り、どうぞと答えた。