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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
さらにまた、それらの注文のしかたと、会ってみた栄二の人柄とが気にいったのかもしれない。とにかく主人の三郎兵衛はあいそよく、勘定のことは心配なく、今後も注文を呉れるようにと云った。
「おや」と三郎兵衛は、栄二が立ちあがるのを見てきいた、「足をどうかなすったのか」
「ええ、去年の夏の大しけでね」と栄二は足のそこを撫でながら答えた、「へまなことをして挫いたんですが、もうなにも故障はありません、お眼ざわりですか」
三郎兵衛は頭を振った、「うちの二男坊がね、やっぱり足が不自由なもんだから、――まあ、大事にして下さいよ」
栄二は黙って頭をさげた。
その店を出ると、強い風のため埃立つ道に立って、栄二は急に、石川島へ寄っていこうと思いついた。足のことをきかれたためかもしれないが、こんどの仕事にとりついた幸運を、岡安喜兵衛や与平に話したかった。大和屋の主人にめぐり会ったことは、その幸運に裏書をされたような気持さえする。寄場へ送られてから、悪いことが続けさまに起こった。不幸はおよそ単独ではこない、しばしばそれは重複しておそいかかる、ということを現実に経験したが、幸運もまた同じかもしれない。