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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
そして嗚咽が高くなり、声をあげておすえは泣きだした。栄二は左手でおすえを抱いたまま、右手で背中を撫で、頬と頬をすり合わせた。
「おめえはおれの女房だ」と彼は囁いた、「初めに云ったろう、おれの女房はこの世でおめえ一人だって、忘れたのか」
おすえの泣き声がもっと高くなり、彼はまた両手でおすえを抱き緊めた。
「おかしなことを云うようだが、笑わずに聞いてくれ」と栄二は静かに云った、「――おれは島へ送られてよかったと思ってる、寄場であしかけ三年、おれはいろいろなことを教えられた、ふつうの世間ではぶっつかることのない、人間どうしのつながりあいや、気持のうらはらや、生きてゆくことの辛さや苦しさ、そういうことを現に、身にしみて教えられたんだ、読本でも話でもない、なま身のこの躯で、じかにそういうことを教えられたんだ」
おすえは泣きやんだが、まだしゃくりあげは止まらなかった。
「寄場でのあしかけ三年は、しゃばでの十年よりためになった」と栄二は続けた、「――これが本当のおれの気持だ、嘘だなんて思わないでくれ、おれはいま、おめえに礼を云いたいくらいなんだよ」
おすえは突然、両手で栄二の頸に抱きつきながら「あんた」