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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

さぶは支えきれずによろめいて、危うく栄二の上へ倒れそうになった。堀江町の角で、かなり人の往来が多い、さぶは自分が見られているように狼狽し、ちょっと待っててくれ、と云いながら「すみよし」の店のほうへ走っていった。

あたしもう諦めたわ、という女の声が聞えた。これが持って生れた運なんだもの、生涯、苦労を背負ってくらすんでしょ、せめてこんど生れてくるときには、もう少しましな家の子に生れてきたいって、それを願うよりほかにないと思ってるの。佐渡のなんとかはこの世の地獄っていうけれど、あたしは生れてから今日までずっと地獄のくらしよ。ああそうだとも、この世はみんな地獄さ、勝手にしやあがれ、と栄二は云った。

「さあ水よ」と女が云った、「咽せないように飲むのよ」

栄二は湯呑から水を飲み、すぐにまた一杯飲んだ。

「のぶ公だな」と栄二は頭を振りながら見あげた、「ここはすみよしか」

「少し横になるほうがいいわ、さあ」おのぶは座蒲団を二つに折り、それを枕にして栄二を横にさせた、「いまなにか掛けるから、眠れたらお眠りなさい」

「さぶはどこにいる」

「仕事じゃないの、仕事が終りしだい戻って来るって、本町のお店とかへいったわ」