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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

四の四

彼はそう思いながら半身を起こし、枕許に用意してあった水差の水を、湯呑には注がず、じかに水差の口から飲んだ。氷のように冷たい水が、こころよく喉をすべると、それが鼻にまでしみるようで、続けさまにくしゃみが三つも四つも出た。

おのぶが障子をあけて覗き、起きたのときいた。栄二は起き直って、掻巻を肩へひきよせながら身ぶるいをした。

「風邪をひいたんじゃないの、くしゃみなんぞして」

「誰か来ているようだな」

「ええ」と云っておのぶは振り向いた、「本町のお店の人ですって、あなたこっちへいらっしゃいよ」

おのぶがうしろへさがると、おすえが顔を見せて会釈した。瀬戸物で作ったように、白くて冷たい、無表情な顔つきであった。いま行燈を持って来るわね、と云っておのぶは去った。

「お帰んなさい」と栄二が云った、「ここはあんたの来るようなところじゃありません」

おすえは泣きだした。

四の四

狭い土間に立ったまま、袂で顔を掩い、声をころしておすえは泣いた。

「おれはもうだめな人間になっちまった」と栄二は乱暴な口ぶりで云った、「おすえちゃんに顔を見られるのも恥ずかしいんだ、頼むからこのまま帰ってくれ」