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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「おすえちゃんにも相談にのってもらいてえことがあるんだ」とさぶはおすえに云った、「やっぱり事がむずかしくなっちゃったんでね」
栄二はくしゃみをし、洟をかんだ。さぶがもの問いたげに、すばやくおすえを見、おすえはその眼に答えるように、そっと頷いた。栄二はそれを認めたが、なにも云わずに顔をそむけた。二人は自分のことを心配し、ひそかになにごとか打ち合わせているらしい。そう考えると栄二は重苦しく気がめいり、自分がいっそうみじめに感じられた。またまたくしゃみが出そうになったので、彼は紙を取って鼻に当て、二本の指で鼻を揉んだ。
――選りに選ってこんなときに、と彼は心の中で舌打ちをした。肝心なときにくしゃみとは、まるっきり茶番じゃあねえか。
酒肴の膳を持って来たのはおのぶではなく、お初とお竹という若い二人だった。店のほうは客がたて混みだして、話したり笑ったり、酔って来たのだろう、早くもくだを巻く声などが、器物の音といっしょにやかましく聞えていた。
「おらあ大きいのにしよう」と云って、さぶは汁椀の蓋を取った、「栄ちゃんも一つやらねえか」
栄二は首を振った。少し飲むほうがいいんだがなあと、さぶは気遣わしげに云い、おすえに酌をしてもらって、続けさまに三杯飲んだ。