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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「よせよ、おめえは強かあねえんだ」と栄二が云った、「そんな飲み方をすると悪く酔っちまうぜ」
「どんなに悪く酔ったって、酒ならいつかはさめらあ」さぶは四杯めに口をつけながら云った、「人間の名にいったんきずがつけば、ちっとやそっとできれいにはならねえもんだ、そうじゃあねえか、栄ちゃん」
栄二はさぶが四杯めを飲んでしまうまで黙っていて、それから「そいつはおれのことか」ときいた。
「おらあ、思うんだが」とさぶは手の甲で口を拭きながら云った、「――栄ちゃんはもう腕っこきの職人だ、親方やお店の世話にならなくったって、独り立ちで堂々とやっていけるんだ、誰に気がねをする必要もなしによ、そうだろう、栄ちゃん」
「つまり」と栄二はさぶの眼を見まもりながら反問した、「――おれは店内からお払いばこっていうわけか」
「そんなこたあ云やあしねえ、ただおれが思うのに」
栄二はさぶの言葉を遮った、「おめえはなんにも思うな、おれは自分のしたこたあ覚えてる、芳古堂にとって先代からのとくい先へどなり込んだ、本町で並ぶ者のねえ老舗の店先へ、酔っぱらってどなり込んだんだ、それを聞いた親方が眼をつむっていられるか、綿文への申し訳に、どうしたっておれをうっちゃってはおけねえ筈だ、さぶ、はっきり云ってくれ、おれは店内から追んだされるんだろう」