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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

これからの一生、世間に顔向けがならなくなるんですから」

「そうかい」儀兵衛はやはり立ったままで栄二を見おろし、右手に持っている爪楊枝を二つに折った、「――私で話がつくと思ったんだが、おまえがそう強情を張るんならしようがない、ちょっとそのまま待っておいで」

そして番頭は出ていった。

二人の娘と親しくなりすぎ、娘のどちらかを嫁に貰うなどという噂が立った。現にさぶが多市という兄弟子から聞いたそうである。どこから出た噂かはわからないが、綿文の人たちにも聞えたであろう。そこで彼を遠ざけるために、誰かがそんな手段を考えだしたのだ。主人の徳兵衛か、妻女か、それとも店の誰かが、――栄二はそう推察したし、いまでもそう信じていた。彼は小僧のじぶんに恥ずかしいあやまちを犯した。芳古堂の主婦にみつかって許され、主婦しか知らないと思っていたが、じつは兄弟子の和助や親方までが知っていたという。知っていて、そのとき許してくれた人たちさえ、こんどの事では誰も理解してくれようとしない。却ってまえのことがあるために、こんどもまた彼の仕業だと思いこんでいるようであった。

「このままでは済ませない」