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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
と、関羽をして、救いのため、そこへ急派し、同時に張飛には、兵糧輸送隊の救援を命じた。
だが、その張飛の手勢も、現地まで行かないうちに、またも敵に包囲されたと聞えてきたし、関羽のほうとは、それきり連絡も絶えて、玄徳の本軍は、ようやく孤立の相を呈してきた。
「進まんか。退かんか?」
玄徳は、迷った。
趙雲は、討って出て、前面の敵と雌雄を決すべきだと、悲壮な覚悟をもって云ったが、
「いや、それは捨て身だ。軽々しく死ぬときではない」
と、玄徳は自重して、ひとまず穣山へ退却しようと決めた。
しかし、万全な退却は、進撃よりも難しい。昼は、陣地を固く守って、士気を養い、ひそかに準備をしておき、翌晩、闇夜を幸いに、騎馬を先とし、輸車歩兵をうしろに徐々と退却を開始して、そして約五、六里――穣山の下までさしかかった時である。突然断崖のうえで声がした。
「劉玄徳を捕り逃がすなっ!」
それに答える喊声と共に、山の上から太い火の雨が降ってきた。無数の松明が焔の尾をひいて、兵馬の上へ浴びせかかってきたのである。
山は吠え、鼓は鳴り、岩石はおちてくる。
逃げまどう玄徳の兵は明らかに次の声を耳に知った。