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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
「あなた、それは何ですの?」
「これかい――」と、袁譚は掌のうえにもてあそびながら、新妻に笑顔を振向けた。
「使いに待たせて、舅御の陣地まで贈るものだよ」
「翡翠か白玉なら、わたしの帯の珠に造らせるのに」
「冀州の城へ還れば、そんなものは山ほどあるよ」
「でも、冀州は、袁尚のお城でしょう」
「なあに、おれの物さ。父の遺産を、弟のやつが、横奪りしているのだ。いまに舅御が奪り返してくれるだろう」
将軍の金印は、ほどなく、黎陽にある呂曠、呂翔の兄弟の手に届いた。
二人とも、すでに曹操に心服して、曹操を主と仰いでいたので、
「袁譚からこんな物を贈ってきましたが」と、彼へ披露してしまった。
曹操は、あざ笑って、
「贈ってきたものなら、黙って受けておくがいい。袁譚の肚は、見えすいている。折がきたら、其方たちに内応させて、この曹操を害さんとする下準備なのだ。……あははは、浅慮者がやりそうなことだろう」
この時から曹操も、心ひそかに、いずれ長くは生かしておけぬ者と、袁譚に対する殺意をかためていた。
冬のうち戦いもなく過ぎた。
しかし曹操はこの期間に、数万の人夫を動員して、淇水の流れをひいて白溝へ通じる運河の開鑿を励ましていた。