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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
酒三巡の頃にいたると、かねて肚に一物のある王威と文聘は、玄徳のうしろに屹と侍立している趙雲の側へ寄って、
「いかがです、一献」と、杯をすすめ、「そう厳然と立ち通しでは大変です。今日は上下一体、和楽歓游の日で、はや公式の席はあちらで相済んだことでもありますから、足下もひとつくつろいで下さい。ひとつ別席へ参って、われわれ武骨者は武骨者同士で大いに飲りましょう」と促した。
「いや、ご辞退申す」
趙雲はにべもない。
「――折角だが断る」とのみで、どう誘っても、そこから動こうとはしない。
けれど文聘や王威が怒りもせず、あくまで根よく慫慂している様子を、玄徳は見るに見かねて、
「これこれ、趙雲」と、振向いて――
「そちはよかろうが、そちの侍立しているうちは、部下の者どもも動くことができまい。それに折角のおもてなしに対してあまり固辞するも礼を欠く。――諸君のおことばに甘え、しばし退がって休息いたすがよい」と、いった。
趙雲は、甚だぶっきら棒に、
「主命とあれば……」
是非がない! といわんばかりな顔して、文聘や王威らと共に、別館へ退がった。
部下三百の者も、同時に、自由を与えられて、おのおの遠く散らかった。