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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「おやすいこと。師父もきっと思わぬ珍客とお歓びになるでしょう」

童子は牛をすすめて行く。導かれて、およそ二里ほど行くと、ちらと、林間の燈が見えた。幽雅な草堂の屋根が奥のほうに望まれ、潺湲たる水音に耳を洗われながら小径の柴門を入ると、内に琴を弾く音がもれ聞えた。

牛屋へ牛をつないで、

「大人。あなたの駒も、奥へつないでおきましたよ。さあ、こちらへおすすみ下さい」

「童子。まずその前に、先生にわしのきたことを取次いでくれ。無断で入っては悪しかろう」

草堂の前にたたずんで、彼が遠慮していると、はたと、琴の音がやんで、たちまちひとりの老人が、内から扉を排して外へとがめた。

「たれじゃ、それへ参ったのは。……いま琴を弾じておるに、幽玄清澄の音いろ、にわかに乱れて、殺伐な韻律となった。かならず、窓外へきたものは、血なまぐさい戦場からさまようてきた落武者かなんぞであろう。……名を申せ。たれじゃ、何者じゃ……」

玄徳はおどろいて、ひそかにその人をうかがうに、年は五十余りとおぼしく、松姿鶴骨、見るからに清々しい高士の風を備えている。

二

ああさては――これが司馬徽、道号を水鏡先生という人か。