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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

玄徳は大きな眼をしてさも驚いたように、

「滅相もない仰せ。いかでか私のような者が、そんな大事に当ることができましょう」

「そうでない。そうでない」

司馬徽はおだやかに否定して、

「いま天下の英才は、ことごとくこの地に集まっておる。襄陽の名士また、ひそかに卿の将来に期待しておる。この機運に処し、この人を用い、よろしく大業の基礎を計られたがよい」

「いかなる人がおりましょうか。その名を、お聞かせ下さい」

「臥龍か、鳳雛か。そのうちの一人を得給えば、おそらく、天下は掌にあろう」

「臥龍、鳳雛とは?」

思わず、身を前にのり出すと、司馬徽はふいに手を打って、

「好々、好々」と、いいながら笑った。

玄徳は、彼の唐突な奇言には、とまどいしたが、これはこの高士の癖であることを後で知った。

日常、善悪何事にかかわらず司馬徽は、きまって(好々)と、いうのが癖だった。

或る時、知人が来て、悲しげに、自分の子の死んだ由を告げると、司馬徽は相変らず、好々とのみ答えていた。知人の帰ったあとで、彼の妻が、

(いくらあなたのお癖とはいえ、お子さんを亡くした人にまで、好々とは、余りではございませんか)