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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

そして樊城まで、一散に逃げてくると、城の門扉を八文字に開いて、

「敗将曹仁、いざ入り給え。劉皇叔が弟臣、雲長関羽がお迎え申さん」

と、金鼓を打ち鳴らして、五百余騎の敵が、さっと駈けだしてきた。

「あっ?」

仰天した曹仁は、疲れた馬に鞭打ち、山にかくれ、河を泳ぎ、赤裸同様な姿で都へ逃げ上ったという。その醜態を時人みな「見苦しかりける有様なり」とわらった。

三戦三勝の意気たかく、やがて玄徳以下、樊城へ入った。県令の劉泌は出迎えた。

玄徳はまず民を安んじ、一日城内を巡視して劉泌の邸へ入った。

県令の劉泌は、もと長沙の人で玄徳とは、同じ劉姓であった。漢室の宗親、同宗の誼みという気もちから特に休息に立ち寄ったものである。

「こんな光栄はございません」

と、劉家の家族は、総出でもてなした。

酒宴の席に、劉泌はひとりの美少年をつれていた。玄徳がふと見ると、人品尋常でなく、才華玉の如きものがある。で、劉泌にそっと訊ねてみた。

「お宅のご子息ですか」

「いえ、甥ですよ――」

と、劉泌はいささか自慢そうに語った。

「もと寇氏の子で、寇封といいます。幼少から父母をうしなったので、わが子同様に養ってきたものです」