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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

曹操は小首を傾けて、

「天下に智者は多いが、予はまだ、単福などという人間を聞いたことがない。汝らのうちで誰かそれを知る者はいるか」

扈従の群星を見まわして訊ねると、程がひとり呵々と笑いだした。

曹操は視線を彼に向けて、

「程※(「日/立」、第3水準1-85-21)。そちは知っておるのか」

「よく知っています」

「いかなる縁故で」

「すなわち潁上の産ですから」

「その為人は?」

「義胆直心」

「学は?」

「六韜をそらんじ、よく経書を読んでいました」

「能は?」

「この人若年から好んで剣を使い、中平年間の末、人にたのまれて、その仇を討ち、ために詮議にあって、面に炭の粉をぬり、わざと髪を振り乱し、狂者の真似して町を奔っていましたが、ついに奉行所の手に捕わるるも、名を答えず、ために、車の上に縛られて、市に引きだされ――知る者はなきか――と曝し廻るも、みな彼の義心をあわれんで、一人として奉行に訴える者がなかったといわれております」

「うむ、うむ……」

曹操は、聞き入った。非常な興味をもったらしく、程※(「日/立」、第3水準1-85-21)のくちもとを見つめていた。

「――しかもまた、日ごろ交わる彼の朋友たちは、一夜、結束して獄中から彼を助けだして、縄をといて、遠くへ逃がしてやったのです。