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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
たとい、玄徳が、この一事のため、亡ぶ日を招くとも、そんな不義なことは断じてできぬ」
彼は、身支度して、早くも帳裡から出て行った。馬をひけ、と侍臣へ命じる。小禽は朝晴を歌っていた。けれど玄徳の面は決して今朝の空のようではない。
関羽、張飛などが騎従した。玄徳は城外まで、徐庶の出発を見送るつもりらしい。人々はその深情に感じもし、また徐庶の光栄をうらやみもした。
郊外の長亭まで来た。徐庶は恐縮のあまり、
「もう、どうぞここで」と、送行を辞した。
「では、ここで別れの中食をとろう」と、一亭のうちで、また別杯を酌んだ。
玄徳は、しみじみと、
「御身と別になっては、もう御身から明らかな道を訊くこともできなくなった。けれど、誰に仕えても、道に変りはない。どうか新しい主君にまみえても、よく忠節を尽され、よく孝行をして、士道の本分を完うされるように」と、繰返していった。
徐庶はなみだを流して、
「おことば有難う存じます。才浅く、智乏しい身をもって、君の重恩をこうむりながら、不幸、半途でお別れのやむなきに至り、慚愧にたえません。母を養うねがいは切々にありますが、曹操にまみえて、どう臣節を保てましょうか、自信は持ち得ません」