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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
三
「自分も、ご辺という者を失っては、何か、大きな気落ちを、どうしようもない。いっそ、現世の望みを断って、山林にでも隠れたい気がする」
「かいなきことを仰せられますな、それがし如き菲才を捨てて、より良き賢士をお招きあれば、ご武運はさらに赫々たるものです」
「ご辺に優る賢士など、おそらく当代には求められまい。絶対に、ないといえよう」
玄徳は沈痛な語気でいった。――それくらいなら何もこのように落胆はしないという風に。
三
亭の外にひかえていた関羽、張飛、趙雲などの諸将も、みな一面は多感の士である。涙を抑えてことごとくうつ向いていた。
徐庶は、亭上からその人々を顧みて、
「拙者の去った後は、諸公におかれても、今日以上、一倍結束して、互いに忠義を磨き、名を末代におのこしあるよう、許都の空より祷っておりますぞ」と、いった。
玄徳はついに嗚咽し、しばしは涙雨の如くだった。そしてなお、ここでも別れるに忍びないで、
「……もう四、五里ほど」と、ともに轡をならべて徐庶を送って行った。
「もう、この辺で……」
徐庶は、固辞したが、
「いや、もう少し送ろう。互いに天の一方にわかれては、またいつの日か会えよう」