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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
四
四
隆中。
襄陽の西二十里の小村落。
そんな近いところに?
玄徳は、疑った。
茫然――つい茫然と聞き惑っていた。
そのまに、徐庶の姿はもう先へ遠ざかりかけていた。
玄徳は、はっと、われに返って、思わず手とともに大声をあげた。
「徐庶っ、徐庶っ。もうしばし待て。待ってくれい」
徐庶はまた、駒を返してきた。玄徳のほうからも馬をすすめて、
「隆中に、賢人ありとは、かつてまだ聞いていなかった。それは真実のことか」と、念を押した。
徐庶は答えて、
「その人は、極めて、名利に超越し、交わる人たちも、限られていますから、彼の賢を知るものは、ごく少数しかないわけです。――それに、君には、新野の地にもまだ日浅く、周囲には荊州の武弁、都県の俗吏しか近づいていませんから、ご存じないのは当然です」
「その人と、ご辺との縁故は」
「年来の道友です」
「経綸済世の才、ご辺みずから、その人と比しては?」
「拙者ごときの類ではありません。――それを今日の人物と比較することは困難で、古人に求めれば、周の太公望、漢の張子房などなら、彼と比肩できるかもしれませぬ」
「ご辺と友人のあいだならば、願うてもないこと、旅途を一日のばして、玄徳のために、その人を新野へ伴うてはくれまいか」