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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「――感じます。それを感じると、脈々、自分の五体は、ものに疼いて、居ても立ってもいられなくなります」

「好々」

司馬徽は、呵々と笑って、

「それさえ覚っておいであれば、あとは余事のみ――やれ、長居いたした」

「先生、もう暫時、お説き下さい。実は近いうちに隆中の孔明を訪れたいと思っていますが――聞説、彼はみずから、自分を管仲楽毅に擬して、甚だ自重していると聞きますが、やや過分な矜持ではないでしょうか。実際、彼にそれほどな素質がありましょうか」

「否々。あの孔明が何でみだりに自己を過分に評価しよう。わしからいわせれば、周の世八百年を興した太公望、或いは、漢の創業四百年の基礎をたてた張子房にくらべても決して劣るものではない」

司馬徽はそう云いながらおもむろに階をおりて一礼し、なお玄徳がとどめるのを一笑して、天を仰ぎ、

「――ああ、臥龍先生、その主を得たりといえども、惜しい哉、その時を得ず! その時を得ず!」

と、ふたたび呵々大笑しながら、飄然と立ち去ってしまった。

玄徳は深く嘆じて、あの高士があれほどに激賞するからには、まさしく深淵の蛟龍。まことの隠君子にちがいない。