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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

三

農夫は、答えるだけを答えてしまうと、わき目もふらず、畑にかがんで働いている。

「この辺の民は、百姓にいたるまで、どこか違っている……」

玄徳は、左右の者に語りながら、また駒をすすめて三、四里ほど来た。道はすでに、岡の裾にかかっていた。

冬の梢は、青空を透かして見せ、百禽の声もよく澄みとおる。淙々とどこかに小さい滝の音がするかと思えば、颯々と奏でている一幹の巨松に出会う。――坂道となり山陰となり渓橋となり、遠方此方の風景は迎接に遑なく、かなり長い登りだが道の疲れも忘れてしまう。

「おお、あれらしい」

関羽は、指さして、玄徳をふり向いた。玄徳はうなずいて、はや駒をおりかけている。

清楚な編竹の垣をめぐらした柴門のほとりに、ひとりの童子が猿と戯れていた。小猿は見つけない人馬を見て、にわかに声を放ち、墻の上から樹の枝へ攀じて、なおもキイキイ叫びつづける。

玄徳は、歩み寄って、

「童子。孔明先生のお住居はこちらであるか」と、たずねた。

童子は不愛想に、

「うん」と、一つうなずいたきり、後ろに続く関羽、張飛などの姿へ、棗のような眼をみはっている。

「大儀ながら、廬中へ取次いでもらいたい。