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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
玄徳は、それへうずくまって、礼を施しながら、
「久しく先生の尊名を慕っていた者です。実はさきに徐庶のすすめにより、幾たびか仙荘へきましたが、いつも拝会の縁にめぐまれず、空しく立ち帰っておりましたが、今日、風雪を冒して参ったかいあって、親しく尊顔を拝し、こんな歓びはありません」
――すると、彼の若者は、急にあわてて、身を正し、答礼していった。
「将軍は新野の劉皇叔でしょう。きょうもまた、私の兄をばお訪ね下すったのですか」
玄徳は、色を失って、
「では、あなたもまた、臥龍先生ではないのですか」
「はい。私は臥龍の弟です。――われらには同腹の兄弟が三人あります。長兄は諸葛瑾と申し、呉に仕えて孫権の幕賓たり。二番目の兄が、諸葛亮、すなわち孔明で――私は臥龍の次にあたる三番目の弟、諸葛均でございます」
「ああ、そうでしたか」
「いつもいつも遠路をお訪ねたまわりながら失礼ばかり……」
「して、臥龍先生には」
「あいにく、今日も不在です」
「何処へお出かけでしょう?」
「今朝ほど、博陵の崔州平が参って、どこかへ誘い、飄然と出て行きましたが」
「お行き先は分りませんか」
「或る日は、江湖に小舟をうかべて遊び、或る夜は、山寺へ登って僧門をたたき、また、僻村の友など訪ねて琴棋をもてあそび、詩画に興じ、まったく往来のはかり難い兄のことですから……