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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「よろしい」

関羽はうなずいて、約半町ほど駒をすすめ、見まもる張飛や二夫人の車をうしろに、敵勢を待ちかまえていた。

彪々と煙る馬車のうえに、三旒の火焔旗をなびかせて、追撃の急速兵はたちまち関羽のまえに迫った。

関羽は、なお不動のすがたを守ったまま、

「来れるは、何者かっ」

と、二度ほど、大音をあげただけだった。

すると、鉄甲にきびしく鎧った一名の大将が、真っ先に出て、

「われはこれ猿臂将軍の蔡陽である。汝、各地の関門をやぶり、よくもわが甥の秦まで殺しおったな。汝の首を取って、丞相に献じ、功として、汝の寿亭侯は此方にもらいうける所存で参った。覚悟せよ、流亡の浮浪人」

「笑うべし。豎子っ」

関羽が、云うやいな、うしろのほうで、張飛の部下が、高らかに一鼓を打ち鳴らした。

二鼓、三鼓――

三通の鼓声がまだ流れ終らないうちに、関羽はもうどよめく敵の中から身を脱して、張飛のまえに駈けもどっていた。

そして、

「それ、蔡陽が首!」

と、張飛の足もとへ、首をほうり投げると、ふたたび敵を蹴ちらしに駈けて行った。

張飛は、あとを追いかけて、

「見とどけた。やはり関羽はおれの兄貴。