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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
その奥から流れ出した格好をしている。こんな不思議なことはない、恐らく奥の知れない洞穴の中に、魔性のものが住んでいて、人身御供を欲しがるのだろうという伝説さえある位で、魔の淵という名前も、そんな所から起ったのではあるまいかということであった。
老漁夫は語り終って、
「それでのんし、こんな廻り道をして、なるだけ穴のそばを通らぬ様にしますのじゃ。旦那方も、魔物に魅入られぬ様にのんし、気をつけんといかんな」
と、気味の悪い注意をしてくれた。だが、私達はそれを、何気なく聞流してしまった。後日、この老漁夫の物語を思出して、ギョッとしなければならぬ様な場合があろうとは、まさか想像しなかったのである。
話している間に、舟は島の一隅の一寸した入江になった所に這入っていた。その部分丈け、岸は一間位の低さになって、天然の岩に刻んだ石段が、形ばかりの舟着場になっていた。
見ると、入江の中には五十噸位に見える伝馬の親方みたいな帆かけ船が繋いであり、外にも、汚い小舟が二三見えたが、人間は一人もいなかった。
私達は上陸すると、老漁夫を帰して、一種異様の感じに胸躍らせながら、ダラダラ坂を登って行った。