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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

盲点の作用

一見不可能に見えることが、どうして可能であったか。この事件を研究する者は、先ずこの点に着眼すべきであったのです。それが凡ての出発点なのです」

私は彼の説明を待ち切れなくて、性急に次の質問に移って行った。

「一体下手人は何者です。我々の知っている奴ですか」

「多分君は知っているでしょう。だが、一寸想像がつき兼ねるでしょう」

ああ、諸戸道雄は、果して何事を云い出でんとはするぞ。私には、今や、朦朧とその正体が分りかけて来たような気がする。彼の怪老人は全体何者なれば諸戸の家を訪れたりしたのであろう。彼は今どこに隠れているのであるか。諸戸が曲馬団の木戸口に姿を見せたのは、何故であったか。七宝の花瓶は如何なる意味でこの事件に関係を持っていたのであるか。今や諸戸に対する疑いは全くはれたのであるが、彼を信用すればする程、私は種々雑多の疑問が、雲の如く私の脳裏に浮び上って来るのを、感じないではいられなかった。

盲点の作用

局面が俄かに一変した。

私が前章に述べた様な様々な理由によって、この犯罪事件に関係があるに相違ないと睨んで、その為態々詰問に出掛けて行った諸戸道雄が、段々話して見ると、意外にも犯人どころか、彼も亦、亡き深山木幸吉と同じく、一箇の素人探偵であったことが分って来たのである。