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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
殺人遠景
私は息子の着物を着て徳さんの小屋に隠れていればよいというのであった。
「お前さんの用事が済むまで、息子にはお伊勢参りでもさせてやりましょうわい」
徳さんは、そんなことを云って笑った。
夕方頃徳さんの息子は私の洋服を着込んで、そり身になって徳さんの持舟に乗り込んだ。
私の影武者を乗せた小舟は、徳さんを漕ぎ手にして、行手にどの様な恐ろしい運命が待構えているかも知らず、夕闇迫る海面を、島の切岸に沿って進んで行った。
殺人遠景
今や私は一篇の冒険小説の主人公であった。
二人を送り出して、今まで徳さんの息子が着ていた磯臭いボロ布子を身につけると、私は小屋の窓際にうずくまって、障子の蔭から目ばかり出して、小舟の行手を見守っていた。
牛の寝た姿の岬は、夕もやに霞んで、黒ずんだ海が、鼠色の空と溶け合い、空には一つ二つ星の光さえ見えた。風が凪いで海面は黒い油の様に静かであったが、丁度満ち潮時で、例の魔の淵の所は、遠目にも渦を為して、海水が洞穴の中へ流れ込んでいるのが見えた。
小舟は凹凸の烈しい断崖に沿って、隠れたかと思うと、又切岸の彼方に現われて、段々魔の淵へ近づいて行った。