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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
明正午限り
それぞれ個性を持った犬共の叫び声が、物狂わしき断末魔の聯想を以て、キンキンと胸にこたえた。今実験室の中で、若しやあのいまわしい活体解剖ということが行われているのではないかと思うと、私はゾッとしないではいられなかった。
門を這入ると、消毒剤の強烈な匂が鼻をうった。私は病院の手術室を思出した。刑務所の死刑場を想像した。死を凝視した動物共のどうにも出来ぬ恐怖の叫びに、耳が被い度くなった。一層のこと、訪問を中止して帰ろうかとさえ思った。
夜も更けぬに、母屋の方は、どの窓も真暗だった。僅かに実験室の奥の方に明りが見えていた。怖い夢の中での様に、私は玄関にたどりついて、ベルを押した。暫くすると、横手の実験室の入口に電燈がついて、そこに主人の諸戸が立っていた。ゴム引きの濡れた手術衣を着て、血のりで真赤によごれた両手を前に突き出した。電燈の下で、その赤い色が、怪しく光っていたのを、まざまざと思い出す。
恐ろしい疑いに胸をとざされて、併しそれをどう確めるよすがもなくて、私は夕闇せまる郊外の町を、トボトボと歩いていた。
明正午限り
深山木幸吉との約束の「五日目」は、七月の第一日曜に当っていた。