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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

恋人の灰

第一、おかしいのは、仮令一間隔たっていたとは云え、耳が少し位遠かったとは云え、目ざとい筈の老人が、人一人殺される騒ぎを、気附かなんだという点である。この事件の係りの検事は、定めしそんな風に考えたことであろう。

その外、検事は色々な事実を知っていた。彼女等が本当の親子でなかったこと、最近は結婚問題で、絶えず争いのあったこと。

丁度殺人のあった夜も、母親は亡夫の弟の力を借りる為に彼を訪問したのだし、帰ってから二人の間に烈しいいさかいがあったらしいことも、隣家の古道具屋の老主人の証言で明かになっている。私が陳述した所の、母親が初代の留守中に、彼女の机や手文庫を、ソッと検べていたなどと云う事も、可也悪い心証を与えた様子であった。

可哀想な初代の母親は、初代の葬儀の翌日、遂にその筋の呼出しを受けたのである。

恋人の灰

私はそれから二三日、会社も休んでしまって、母親や兄夫婦に心配をかけた程も、一間にとじ籠った切りであった。たった一度、初代の葬儀に列した外には、一歩も家を出なかった。

一日二日とたつに従って、ハッキリと本当の悲しさが分って来た。初代とのつき合いは、たった九ヶ月でしかなかったけれど、恋の深さ烈しさは、そんな月日で極まるものではない。