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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
異様なる恋
無論私達はホテルに泊りはしないで、夜更けに、銘々の家に帰った。
異様なる恋
私と木崎初代との間柄は日と共に深くなって行った。それから一月ばかりたって、同じホテルに二度目の夜を過した時から、私達の関係はさきの少年の夢の様に、美しいばかりのものではなくなっていた。私は初代の家を訪ねて、彼女のやさしい養母とも話をした。そして、間もなく、私も初代も、銘々の母親に、私達の意中を打開ける様にさえなった。母親達にも別段積極的な異議があるらしくなかった。だが、私達は余りに若かった。結婚という様な事柄は、もやを隔てて遠い遠い向岸にあった。
若い私達は、子供が指切りをする様な真似をして、幼い贈物を、取交したものである。私は一ヶ月の給料をはたいて、初代の生れ月に相当する、電気石をはめた指環を買求めて、彼女に贈った。それを、私は活動写真で覚えた手つきで、ある日、日比谷公園のベンチの上で、彼女の指にはめてやったのである。すると、初代は子供みたいに、それを嬉しがって(貧乏な彼女の指にはまだ一つの指環さえなかったのだ)暫く考えていたが、
「アア、私思いついたわ」彼女はいつも持っている、手提げの口を開きながら云うのであった。