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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

岩屋島

諸戸は流石に、その点に触れることを恐れたのである。

だが、私の弱い心は、その時、三重の人殺しという血腥い事柄丈けでヘトヘトに疲れ果ててそれ以上の悪業を考える余地がなかったのか、これまでの凡ての事情を綜合すれば、当然悟らねばならぬその事を、不思議と少しも気附かなんだ。

岩屋島

相談が纏まると、私達は何よりも先ず、神田の洋食屋の二階の、額の中へ隠して置いた、系図帳と双生児の日記のことが気掛りであった。

「日記にしろ系図帳にしろ、僕達が持っていては非常に危険だ。暗号文さえ覚え込んで置けば、外のものに別段値打ちがある訳ではないから、一層二つとも焼き捨ててしまう方がいい」

諸戸は、神田へ走る自動車の中で、こんな意見を持出した。私も無論賛成であった。

だが、洋食屋の二階に上って、心覚えの額の破れ目から手を入れて探って見ると、どうした事か、その中は空っぽで、何の手答えもない。下の人達に尋ねても、誰も知らぬ。第一昨日からその部屋へ這入った者は一人もないとの答えであった。

「やられたんだ。彼奴は我々の一挙一動を、少しも目を離さず見張っているんだ。あんなに注意したんだがなあ」