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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
八幡の藪知らず
八幡の藪知らず
兎も角横穴へ這入って、宝が已に持出されたかどうかを確かめて見る外はなかった。私達は一度諸戸屋敷に帰って、横穴探険に必要な品々を取揃えた。数挺の蝋燭、マッチ、漁業用の大ナイフ、長い麻縄(網に使用する細い麻縄を、出来るだけつなぎ合わせて、玉を拵えた)等の品々である。
「あの横穴は存外深いかも知れない。『六道の辻』なんて形容してある所を見ると、深いばかりでなく、枝道があって、八幡の藪不知みたいになっているのかも知れない。ホラ『即興詩人』にローマのカタコンバへ這入る所があるだろう。僕はあれから思いついて、この麻縄を用意したんだ。フェデリゴという画工の真似なんだよ」
諸戸は大げさな用意を弁解する様に云った。
私はその後「即興詩人」を読み返して、彼の隧道の条に至る毎に、当時を回想し、戦慄を新たにしないではいられぬのだ。
「深きところには、軟なる土に掘りこみたる道の行き違ひたるあり。その枝の多き、その様の相似たる、おもなる筋を知りたる人も踏み迷ふべきほどなり。われは穉心に何ともおもはず。画工はまた予め其心して、我を伴ひ入りぬ。先づ蝋燭一つ点し、一つをば猶衣のかくしの中に貯へおき、一巻の絲の端を入口に結びつけ、さて我手を引きて進み入りぬ。