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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
鋸と鏡
向うで、そんなに私を嫌うなら、こちらでも嫌ってやれ憎んでやれという考が、つい近頃出来て来ました。それで、私は、近頃は、私と違った形の、あたり前の人を、心の内で片輪者と云ってやります。書く時にもそう書いてやります。
鋸と鏡
〔註、この間に幼年時代の思出数々記しあれど略す〕
助八さんは、よいお爺さんだと云うことがだんだん分って来ました。けれども、よいお爺さんではありますけれども、誰か外の人から(ひょっとしたら神さまかも知れません。それでなければ、あの怖い「お父つぁん」かも知れません)やさしくしてはならんと、いいつけられているのだということが、よくよく分って来ました。
私は(秀ちゃんも吉ちゃんも)話がしたくて仕様がないのに、助八さんは歌を教えてしまうと、私が悲しんでも、知らん顔をして行ってしまいます。長い間ですから、時々話をすることもありますが、少し少し喋ると、何か目に見えないものが、口をふさぎに来た様に、黙ってしまいます。「馬鹿」のおよねさんの方が、よっぽど沢山喋りました。けれども、私の聞き度いことは、少ししか云いませなんだ。
字や物の名や、人間の心のことを覚えたのは、たいがい助八さんに教えてもらったのですが、助八さんは「わしは学問がないのでいかぬ」