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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

影武者

「アア、恐ろしい。まさかまさかと思っていたことが本当だったのだ。もう愈々おしまいだ」

「やっぱり、僕達が疑っていた通りだったの」

私は声を低めて尋ねて見た。

「そうだよ。そして、もっとひどい事さえあったのだよ」

諸戸は土色の顔を歪めて、悲しげに云った。私は、色々とかれの所謂「もっとひどい事」について尋ねたけれど、彼はそれ以上何も云わなかった。ただ、

「明日はキッパリと断ってやる。そうすれば愈々破裂だ。蓑浦君、僕は君の味方だよ。力を協せて悪魔と戦おうよ。ね、戦おうよ」

と云って、手を延ばして私の手首を握りしめるのだった。だが、勇ましい言葉に引きかえて、彼の姿の何とみじめであったことか。無理もない、彼は実の父親を悪魔と呼び、敵に廻して戦おうとしているのだ。やつれもしよう。青ざめもしよう。私は慰める言葉もなく、僅かに彼の手を握り返して、千万の言葉にかえた。

影武者

その翌日とうとう恐ろしい破滅が来た。

お昼過ぎ、私が独で唖の女中の御給仕で(これが秀ちゃんの日記にあったおとしさんだ)御飯をすませても、諸戸が父親の部屋から帰って来ぬので、独で考えていても気が滅入るばかりだものだから、食後の散歩旁々、私は又しても土蔵の裏手へ秀ちゃんと目の話をしに出掛けた。