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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
絶望
これが最後に残された、唯一の迷路脱出法であった。
私達ははぐれぬ為に、時々呼び合う外には、黙々として果知れぬ暗闇をたどって行った。私達は疲れていた。耐えられぬ程の空腹に襲われていた。そして、いつ果つべしとも定めぬ旅路である。私は歩きながら、(それが闇の中では、一箇所で足踏みをしているときと同じ感じだったが)ともすれば夢見心地になって行った。
春の野に、盛花の様な百花が乱れ咲いていた。空には白い雲がフワリと浮んで、雲雀がほがらかに鳴き交していた。そこで地平線から浮上る様な、鮮かな姿で、花を摘んでいるのは、死んだ初代さんである。双生児の秀ちゃんである。秀ちゃんには、もうあのいやな吉ちゃんの身体がついていない。普通の美しい娘さんだ。
幻というものは、死に瀕した人間への、一種の安全弁であろうか。幻が苦痛を中絶してくれたお蔭で、私の神経はやっと死なないでいた。殺人的絶望がやわらげられた。だが、私がそんな幻を見ながら歩いていたということは、とりも直さず、当時の私が、死と紙一重であったことを語るものであろう。
どれ程の時間、どれ程の道のりを歩いたか、私は何も分らなんだ。