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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

だが、これは夢でも幻でもない、厳然たる事実なのだ。徳さんとその息子とは、人鬼の奸計によって、恐らくは魔の淵の藻屑と消えてしまったのだ。

今こそ丈五郎の悪企みが分った。彼は最初から私をなきものにする積りだったのだ。それを屋敷内で手を下しては何かと危険だものだから、舟にのせて、島との縁を切って置いて、舟の通路になっている断崖の上に待伏せ、魔の淵の迷信を利用して、徳さんの舟が、人間以上のものの魔力によって転覆した如く装おうとしたのだ。それ故彼は便利な銃器を使わず、難儀をして大岩を押し落したりしたのである。

渡船を外の漁師に頼まず、不仲の徳さんを選んだのにも理由があった。彼は一石にして二鳥を落そうとしたのだ。彼の悪事を感づいている私をなきものにすると同時に、以前の召使で彼に反旗を翻した、それ故彼の所業をある程度まで知っている徳さんを、事の序に殺してしまおうと企らんだのだ。そして、それが見事図に当ったのだ。

丈五郎の殺人は、私の知っている丈けでも、これで丁度五人目である。しかもよく考えて見ると、恐ろしい事に、その五つの場合は、悉く、間接ながら、この私が殺人の動機を作ったと云ってもよいのだ。