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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それを、渦巻に巻き込まれて、迚も命がないと思ったものだから、海へ出ないで、穴の中へ泳ぎ込んでしまったのだよ。まさかこの穴が、渦巻よりも恐ろしい、八幡の藪知らずだとは思わなかったからね。あとで気がついて引返して見たが、路に迷うばかりで、迚も元の穴へ出られやしない。だが、何が幸になるか、そうしてわしが、さ迷い歩いたお蔭で、お前さん達に逢えた訳だね」
「こうして食物が出来たからには、僕達は何も絶望してしまうことはないよ。百に一つ、まぐれ当りで外に出られるものなら、九十九へんまで、無駄に歩いて見ようじゃないか、何日かかろうとも、何月かかろうとも」
人数がふえたのと、蟹の生肉のお蔭で、私は俄に威勢がよくなった。
「アア、君達はもう一度娑婆の風に当りたいだろうね。僕は君達が羨ましいよ」
諸戸が突然悲しげに云った。
「変なことを云いなさるね。お前さんは命が惜しくはないのかね」
徳さんが不審そうに尋ねた。
「僕は丈五郎の子なんだ。人殺しの、片輪者製造人の、悪魔の子なんだ。僕はお陽様が怖い。娑婆に出て、正しい人達に顔を見られるのが恐ろしい。この暗闇の地の底こそ悪魔の子にはふさわしい住家かも知れない」