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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
三十九
「嬉しくねえ、嬉しくねえ、へん、馬鹿にしねえや。何でえ、」
と、下唇を反らすのを、女房はこの芸なしの口不調法、お世辞の気で、どっかで喧嘩した時の仮声をつかうのかと思っていると、
「何てやんでえ、ヘッ笑かしやがら、ヘッ馬鹿にすら、ヘッヘッ馬鹿にしやがら、ヘッ土百姓、ヘッ猿唐人め、」
太夫しゃくりが出るから、湯のかわりに、お賤が、
「あいよ、お酌、」
「ヘッ、ありがとうざい、」と皆一所。吃逆と、返事と御礼と、それから東西と。
三十九
「おかみさん、難有え、お前さんの思召しも嬉しけりゃ、肴も嬉しけりゃ、酒も旨え、旨えけれど可笑くねえや、何てってこうおかみさん、おかみさん、」
「おや、私のことかい。」
「お聞きねえ、伺いやすがね、こう見渡した処、ざっとこりゃ一両がもんだね、愛吉一年の取り高だ。先刻お湯銭が二銭五厘、安い利だが持ちませんぜ。誰が、誰がこの勘定をしやがるんでえ。ヘッ、人をつけ、嬉しくねえ。」
女房は笑って逆わず、
「景気がついて来ましたね、ちっとは可い心持になりましたかい。」
「好いにも、悪いにも何だか気になってならねえんでさ、変てこにこう胸へつッかけて来るんでね、その勘定の一件だ。