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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
」
「そうですか、ほんとに思出すわねえ、良い月夜で、露霜で、しとしとしてねえ。」
「草の中においでなすったお嬢さんのお姿が、爪先まで明いんですもの。私は慄然としましたよ。そうしてちっとばかり聞かしておくれ、こんな風で済まないけれどもッて、銀貨のお代を頂きました時は、私は掌へ、お星様が降ったのかと思いました。
追分をお好き遊ばした、弁天様のお話は聞きましたが、ここらに高尾の塚もなし、誰方が草刈になっておいで遊ばしたんでしょうと、ただ、もう尊くなりましてね。おんぼろの婆じゃありましてございますが、一生懸命、あんな役雑な三味線でも、思いなしか、あの時くらい、隅田川の水にだって、冴えた調子は出たことがございませんよ。」
当時の光景、いかに凄絶なるものなりしぞ。
「ああ、私も聞いている内に、ひとりで涙が出たんですもの、愛吉、おばさんはそりゃ上手だよ、」といいすてて、階子段に、蔦がからんだ裳の紅、するすると上って行った。
「ヘッ笑かしゃあがら、ヘッ旦的めえ、汝が取りに下りれば可い。寒いが聞いて呆れらい。ヘッ、悪く御託をつきゃあがると、汝がの口へ氷を詰めて、寒の水を浴びせるぞ、やい!」