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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
(おや、もうお目覚。)
(ああ、今起きようと思っているの。)
女房が、不思議というのはこの事ではない。ただ愛吉が夜中に帰った時の、戸外が凄かったもののけはいの事である。
それとなく、
(昨夜夜中に帰りましたね。)
(喧嘩の夢を見て、寐惚けたんだよ。)とばかりお夏は笑っていたが、喧嘩の夢どころではない、殺人の意気天に冲して、この気疾の豪傑、月夜に砂煙を捲いて宙を飛んだのであった。
この意気なればこそ、三日握り詰めたお夏の襟をそった剃刀に、鎮西五郎時致が大島伝来の寐刃を合わせたとはいえ、我が咽喉ならばしらず、いかで誤ってお夏の胸を傷つけんや。衣ていた絹は、膚よりも堅いのに。
くらがり坂で躍り出して、
(こん、畜生!)
コオトの背中を引抱えて、身体を圧にグサと刺した。それでも気が上ずったか、頭巾の端を切って、咽喉をかすって、剃刀の尖は、紫の半襟の裏に留まったのである。
お夏がよろける。奥さん、と梅岡薬剤。――
呀と、駆け寄った丹平は、お夏が刃物を引きつけるように、我を殺すものの頸を、両のかいなでしっかと絞めて抱いたのを見た。その身は坂を上の方、兇漢は下に居た。